第35回大宅壮一ノンフィクション賞&第25回講談社ノンフィクション賞をW受賞した、渡辺一史さんの傑作ノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」。札幌に実在した重度の筋ジストロフィー患者・鹿野靖明さんとボランティアたちとの心の交流を綴る物語を、大泉洋さん主演で映画化した「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」が、あす12/28(金)に公開されます。

(C)2018映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
札幌にゆかりのあるベストセラーの映画化!とあって、楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。我々ミュージアムも、札幌フィルムコミッションとの共同企画パネル展(※詳しい記事はこちら)などで応援中! キャンペーンで来札された前田哲監督インタビューをたっぷりご紹介します。
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ーーよろしくお願いします。札幌市長への表敬訪問では札幌市、特にメイン舞台となった西区の方々が協力的だったとお話されていました(※レポート記事はこちら)。札幌ロケの手応えはいかがですか。

北海道は原作を読んでいる人が多く、まして大泉洋さんが主演だと聞くと「ぜひぜひ」と受け入れてくださって、その〝懐の大きさと温かさ〟が嬉しかったです。札幌は〝画〟になる場所が多いですよね。これだけの都市でありながら、近くに山も川もある。ビルの向こうに山がある風景は全国でもなかなかありません。四季がはっきりしているのも魅力です。札幌のロケ地でいうと、北海道大学が良かったですね。美咲(高畑充希)と田中(三浦春馬)がデートする芝生や、クラーク会館も印象的でした。

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
もちろん、札幌フィルムコミッションの存在も大きいです。鹿野さんの住まいは札幌市西区山の手にある団地で撮影しましたが、なんとそこは鹿野さんが実際に住んでいた部屋だったんです。奇跡的に、ロケの日程と空き室になったタイミングが合致して、管理している道庁のご好意もあってお借りできました。鹿野さんが実際に通った病院でロケできたり、当時の主治医の方が協力下さったり…。美瑛の撮影も本当に鹿野さんが泊まったペンションをお借りできたり、まさに鹿野さんに〝招かれている〟感じがしました。
――大泉洋さんが演じる主人公・鹿野は、「いつまでも見たい」と思える魅力的なキャラクターでした。一方で、下半身を動かせない、どんどん話せなくなる…という難しい役どころでもありました。演出で気を遣われた点は?
同じことを、佐藤浩市さんも心配していました。「洋ちゃん大丈夫かな」って。役者は肉体の表現者ですから、体を動かせない制約は、ストレスです。でも、大泉さんの凄いところは、制約があればあるほど、「じゃあ何ができるか」と楽しみながら探せる点。実際の鹿野さんが、病気が進んで動けなくなればなるほど〝生命力〟をアップしていったと原作にありますが、大泉さんの場合、役者としての動きを封じられるほど、発揮できるものを見つけていったんです。目や眉毛、声の強弱、間など、彼はあらゆる工夫をし、素晴らしい表現につなげてくれました。

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
――ヒロインの高畑充希さんは、前田監督の「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」(2007年)が映画初出演。当時はボーイッシュな初々しい演技でしたが、今回は、どんどん女性として成熟し、包容力を感じさせるような役柄でした。
「ドルフィンブルー」で彼女は14歳でしたが、当時から度胸があって自分の意見をしっかり持っていた。僕は、本人が心から出た表現が一番強いと思っているので、彼女はそういうことのできる〝天才〟だと思います。今回も、シナリオに描かれた心理の変化をしっかり確認して、現場に入ってくれました。お芝居はリアクションなので、彼女と大泉さん、三浦さんの3人がどういう〝アンサンブル〟を見せてくれるかが大きな見どころです。

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
――常に赤いものを身につけているのも印象的でした。
僕の映画に出てくる女性は、強いんです。パキッとして、凛としていて、ぶれない。そして必ず、赤い服を着ているんです。無意識なので、なぜ赤なのかと問われると困りますが、やはり一番強い色だからでしょうね。ちなみに、僕の映画の男性はだいたいアタフタしています。

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
――確かに、三浦さん演じる「田中」も当てはまりますね(笑)。田中、美咲以外のボランティアと鹿野さんの関係も、原作同様、心地良く描かれていて素敵でした。
ほかのボランティアと鹿野さんとの関係は劇中で具体的には描いていませんが、実は全員、プロフィールがあるんです。たとえば、渡辺真起子さん演じる「前木」の場合、過去に離婚しかけて鹿野に相談したとか、宇野祥平さん演じる「塚田」はバーテンダーだからいつも白いワイシャツを着ているとか…。それぞれストーリーを背負って、それを含んだ演技を見せてくれています。
――友情出演の佐藤浩市さんも、シーンに重みを加えています。監督の助監督時代をよく知る方だそうですね。
彼が「C(コンビニエンス)・ジャック」という1992年の映画に出演されたのが始まりです。助監督時代に触れ合うものがあり、「僕が監督になったら出る」という約束を、今も律儀に守って下さっている侠気のある方です。
―佐藤さんは、増毛ロケも行われた相米慎二監督作「魚影の群れ」にご出演されています。監督も、相米監督のもと「ポッキー坂恋物語 かわいいひと」で劇場映画デビューされていますが、何かご関係は…。
実は、僕はタイミングが合わず、相米監督の現場には入っていないんです。縁あって、相米さんが総監督を務めた3話構成のオムニバス映画「ポッキー坂恋物語」でデビューさせてもらいましたが。…実は当時、ずっと反発していました。若くて生意気だったし、初監督だったので好きに撮らせてもらいたくて。
―そうでしたか…相米監督の思い出はありますか?
相米さんは、僕にとっての〝鹿野さん〟です。甘え上手で、ワガママ放題で、自由な人。でも、僕の師匠的存在であり、親父のような存在です。誰にでも、そういう存在っているんじゃないでしょうか。映画を作っているときは何かと喧嘩を売っていたんですが、彼の大きさと優しさと愛情を知るのは、映画を撮り終わったときでした。もともとプレゼント・ビデオとして作った作品を劇場で上映してくれたのは彼ですし、映画関係者に褒められたとき、相米さんから「今のは誉め言葉じゃないぞ。器用に映画を作るな。小さくまとまるな」と言われたことは忘れられません。
――ありがとうございます。監督のフィルモグラフィーを拝見すると、「命」、それも、きれいごとではない「生きること」を描くことをテーマとしているように思いますが、いかがでしょうか。
「人が生きることって何だろう」というのは、小さいころから疑問でした。楽しいこともあるけれど、つらいことも多い。必ずいつか終わるのに、嫌な思いと共存しながら、格闘して生きていくのはなぜだろう、と。答えがないからこそ、知ろうとする、考えることが、僕にとっては映画作りなのかもしれません。

映画は、年齢も国境も超えて楽しめ、認知されやすいメディア。社会を変える力があると、僕は信じています。それは何もメッセージを発するということではなく、映画を観た人が「こんな面白い映画観たよ!」と周囲に話すことが小さな一歩です。映画をまず楽しんで、そこからちょっとした気づき、たとえば今回の映画なら、「車いすの生活ってこんな大変なのか」「ボランティアって案外楽しそうだな」でも何でも受け取り方は多様でいいのですが、そういう話をすることで、ひとり一人が社会に対して思いを持つ大事だと思います。問題意識を持って活動することはもちろん重要ですが、一人でも多くの人が、小さくとも声を上げること、小さな一歩でも踏み出すことが、社会を変える力になると信じています。
――最後に、観客へメッセージを。
札幌市内の色々な場所で撮影し、地元市民も多くエキストラ出演いただいています。映画は1000カット以上あるのですが、1カット、1カットの積み重ねが映画なんです。出演して頂いた人たちのおかけで、その1カットが成立し、結果、映画が生まれていくんです。そういう協力者の方々と、北海道というロケ地のおかげで、映画が豊かになりました。ぜひ、その成果を劇場で見届けてもらいたいです。家族で楽しんで、観終わった後にはいろいろな話をしてほしいと思っています。
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映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」
2018年12月28日(金)全国ロードショー
監督:前田哲、出演:大泉 洋、高畑充希、三浦春馬
公式サイトはこちら