「シネマの風景フェスティバル2012」(9月1~7日)

に行われた映画評論家・品田雄吉さんの
トークレポート。後編をどうぞ。
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子供のころは、地元の遠別町には映画館がなく、公会堂のような集会場で映画が上映されていました。小学校に入るころ、「遠別座」という立派な劇場ができました。年配の方はご存じでしょうけれど、下足を脱いであがるような芝居小屋です。2階の高い所は「おなおり」と言われ、料金も割り増しだったはず。大人になって、東京の「歌舞伎座」に行ったら、造りが「遠別座」と同じで驚いたことがあります。花道があって、枡席があって、畳敷きで…。そうした場所で映画を観ることが、田舎の人たちにとっては、文化的というか、唯一の娯楽だったわけです。

「今日映画があるよ」という日は、ちんどん屋が村を回ります。映画のフィルムは、遠別の隣りまち・手塩から運ばれ、その後、南の初山別に移動します。ですから、私にとって映画は、隣町から来て隣町へいくもの。「映画が来る」なんてよく話していました。夜、たった一回だけの上映なので、映画がある日は町じゅうがちょっと浮き立ったような感じ。皆が仕事を早めに切り上げて、家族そろって映画を見に行く。若い男女にとっては、そこが絶好の逢い引きの場になったりして(笑)、非常にいい雰囲気の出会いの場所でもあった。映画は、そういう文化でした。

これに関連して思い出すのは、「ミツバチのささやき」というスペイン映画。とてもいい映画です。この冒頭部分、オート三輪のような小型トラックで、移動映写のフィルムが運ばれてきて、夜、村人たちが映画を見に行きます。そこで上映されたのが、フランケンシュタインの映画。それを見た小さなかわいい女の子がフランケンシュタインに取り憑かれちゃって…というような内容なんですけれど、私はそれを見たとき、田舎を思い出して、「映画の文化は世界中同じなんだな」という印象を受けました。

小学校6年のとき、札幌の中学に入るため、札幌の親戚に預けられました。二中(現・西高)に入り、通いだして2年くらいで戦争がひどくなって、昭和16年、中学2年くらいから勤労動員が始まり、丘珠飛行場の滑走路の板敷きなどをやらされました。敗戦を迎えたのは旧制中学4年の時。学校に戻っても、それまで勉強していないので英語なんか全然分からない。結局、私は幸いにも北大に入れましたけれども、そんな時代でした。

なぜ映画を見るようになったのかというと、実は、兄の影響が非常に強かったんです(※スタッフ注、ミュージアムには、雄吉さんの兄・平吉さんの映画コレクションを展示しています)。あと、札幌の親戚に預けられたとき、監督する人がいなかったものですから不良少年になりまして(笑)、一人で映画館で映画を見て遊んでいたんですね。 そんな中学3年のころ、黒澤明監督の「姿三四郎」を観て、すごい映画だなと感動しました。同じ年、木下恵介監督の「花咲く港」というコメディーを観て、これもとても面白かった。封切りの時に、黒澤・木下の処女作を観たことは、私にとっては非常に大きな財産になっています。でも当時、中学生が一人で映画館に入ると退学になりました。私は運よく捕まらなかったので、卒業・進学ができましたけれど、もし捕まっていたら運命は変わっていたのかもしれません。

北大にいたころ、「キネマ旬報」という雑誌が初めて懸賞論文を募集するイベントをやりました。当時、獅子文六原作の「自由学校」という新聞連載小説を松竹と大映が競作したんです。その比較論を懸賞募集しまして、賞金と半年分のキネ旬がもらえるというのが魅力で応募したんです。すると、なんと、一等賞になりました。のちに、選外佳作に深作欣二さんの名前があったことが分かったんですが、この人は私が書いたものを読んで「こういうヤツがいるんじゃ、オレは批評は辞めた」と言って映画監督になったといいます。ま、嘘か本当か分かりませんけれど(笑)。ですから私は、優れた日本の映画監督の一人を送り出したという功績があるわけです(笑)。

それにつけても私が思うのは、北海道は、映画のロケ誘致を北海道庁あたりが本気になってやるべきだと思います。一生懸命やってらっしゃる方もいるようですけれど。先日、札幌を舞台にした「探偵はBARにいる」という映画のプロデューサーにお会いしました。若い札幌出身の方です。映画は、公開前は社内でもあまり期待されていなかったようですけれど、大ヒットして評判も良く、すごく喜んでいました。この映画も、北海道でないと作れない強みがありました。雪がいっぱいの描写も、ここでなければできません。そういう土地の特色をうまく生かした映画でした。

(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会
【写真説明】11月3日に公開される利尻・礼文・稚内などでロケされた「北のカナリアたち」
北海道のユニークな魅力をもっと生かした映画を作ってほしい。そういうことを考えるひとつの大きなきっかけとして、この「北の映像ミュージアム」がやっているイベントで、北海道ロケの名作を観てもらえればと思います。今回上映される根岸吉太郎監督の「雪に願うこと」も、本州では考えられない「ばんえい競馬」をモチーフにした非常にいい映画です。根岸さんは東京生まれの方ですけれど、「遠雷」という優れた作品を作った方。根岸さんが「また北海道を舞台にした映画撮ろうか」と思ってくれると、面白いものができると思います。というわけで、小林正樹監督から根岸吉太郎監督まで、北海道で素晴らしい映画ができているということを再確認できたと思います。(拍手)
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さて、みなさんいかがだったでしょうか。
遠別町出身の品田さんならではの、
北海道ロケの映画の可能性を考えさせるトークでした。
品田さんには、ミュージアムに映画コレクションを展示している
実兄・平吉さんについても改めてインタビューしています。
こちらも追ってアップしますので、ぜひお読みください。

「シネマの風景フェスティバル」をお手伝いしてくれた
北海学園大の学生さんたち