第5回「北のシネマ塾」レポート!後編

ミュージアム恒例の「北のシネマ塾」第5回目(5月19日)。

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」をテーマにした

高村賢治理事のトークは、ロケ地網走、

そして、寅さんにとっての「旅」に広がります。

* * *

続いて、ロケ地となった網走についてお話します。

網走は、北海道の中で4番目にロケが多い場所。どうしても「網走番外地」のイメージが強く、へき地という感じですが、この「忘れな草」は、そのイメージを変える起爆剤になったと思います。この作品では、マドンナ・リリーのキャラクターに合わせて、落ちぶれた女の行き着く先、哀れさ、はかなさを反映させる場所として登場しています。土地をうまく生かした描き方といえるでしょう。

当時のパンフレットなどによると、実は寅さんとリリーの出会いは違う設定だったようです。根室本線の花咲駅でカニを食べていた寅さんが、リリーと出会う、ということだったとか。しかし実際は、石北線の夜行列車の中になりました。確かに、カニを食べながら・・・ではちょっと違う印象だったでしょう(笑)。

また、隠れた狙いとして、長谷川伸の「一本刀土俵入り」に出てくる女性の役柄もリリーに投影させているようです。役者に関してお伝えしますと、リリーの母親役は、利根はる恵さんという大ベテラン。代表作に山本薩夫監督の「真空地帯」(52年)があり、娼婦の役で見事な演技を見せていました。残念ながら2005年にお亡くなりになりました。リリーの夫役は、毒蝮三太夫さん。ウルトラマンなどでご存知の方も多いでしょうが、実は子役時代に成瀬巳喜男監督の「鰯雲」(58年)に出演していますので、ぜひ見てみてください。

細かい点ですが、劇中に出てくるリリーの歌に関する質問も少なくありません。網走で父を見送る家族を見るシーンで、リリーがちらっと歌うのは「越後獅子の唄」。全国を回る浮き草家業の人物が登場する「とんぼ返り道中」(51年、斎藤寅次郎監督)という映画に出てくる歌で、やはりこれもリリーのキャラクターとリンクさせています。

最後に、寅さんやリリーにとって「旅」とは何なのか。なぜ、旅をしなければならないのか、について考えました。それは、長谷川伸の世界に非常に近いものがあるのではないでしょうか。事実、「続・男はつらいよ」で、見事に、寅さんと「旅」に関するひとつの答えが出されています。これは、寅さんが自分の母親を探し、見つけたものの、ミヤコ蝶々演じる連れ込み宿のおかみさんだった。自分の母親像が崩れ、ショックを受けたことが原動力になって、旅につながるんです。

このように、生い立ちや舞台、職業などをひっくるめて、私が考えるリリーの生き方をお話しました。

ちなみに、時代背景として、1973年は7月に日航ハイジャック事件があり、10月にはオイルショックがありました。この作品は8月に公開されており、劇中、寅さんがリリーにレコードの売れ行きを問われ、「お互い様さ。この時代、不景気だからな」というセリフがありますが、これはその後の社会状況を見事に言い当てた、シナリオの名言といえるでしょう。

(拍手)

* * *

さて、意外なリリー誕生話や寅さん考が展開された

高村さんの「北のシネマ塾」。

いかがだったでしょうか。

次回は・・・

6月16日(土)午後2時~

「さっぽろ映画館グラフィティー③

熟成した昭和50年代の映画館」を開催します。

あの3人組と、懐かしの映画談議を楽しみましょう。

第5回「北のシネマ塾」レポート!前編

好天の札幌!

さて、本日は、5月19日に開催された「北のシネマ塾」レポート。

網走ロケ「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」

(73年、山田洋次監督)をテーマに、

映画研究家の高村賢治理事が

マドンナ・リリーの生き方について語りました。

国民的映画の設定事情からマドンナ像まで、

映画を愛する高村さんならではの濃いトーク内容を

2回にわたってお伝えします。

* * *

まずは、この作品の生まれる背景をご説明します。

「男はつらいよ」初期の面白さの原点は、寅さんの「フーテン性」にありました。しかし、10作を重ねる過程で、マスコミからマンネリ・ワンパターンだと酷評されるようになったのです。そこで11作目の「忘れな草」を作るに当たって、作り手、つまり脚本担当の山田洋次さん、朝間義隆さん、宮崎晃さんが考えた結果、この「フーテン性」を違うカタチでもっと面白くさせるために生まれたキャラクターが、「リリー」です。

リリーは流れ者、ドサ回りの歌手という役どころ。つまり、寅さんと同じ目線に立つ女性なんですね。これまでの10作は、寅さんが、まるで高みにいるマドンナを見上げるような視線でドラマが展開されました。しかしこの11作目では、寅さんと同じフーテン性を持つキャラクター・リリーを作り、寅さんとうまく合わせることで、新しさを見せつけることに成功したのです。

これは自分なりの仮説なのですが、リリーというマドンナが生まれた背景にはもうひとつ考えられます。同じ松竹の木下惠介監督作品「カルメン故郷に帰る」 (51年)。高峰秀子さんがストリッパー役を演じていますが、これも、全国を回る仕事。そして、この役名が、なんと「リリィ」なんです。ひょっとしたらこのキャラクターを、山田さんたちが日本映画史の中で継承したかったのではないかと思うんです。

事実、高峰秀子さんは1974年に引退され、その前年73年にこの「忘れな草」が製作されています。製作時には、山田さんたちは高峰さんの引退宣言を知っていたはずです。74年のキネ旬ベストテンには、第5位に高峰さん主演の「恍惚の人」、第9位にこの「忘れな草」が入っています。まるで見えない糸で継承されたように感じるのです。ぜひいつか、この点を山田さんに聞いてみたいところですが、たぶんはぐらかされるでしょう(笑)。というわけで、このように、映画史的な流れから見ると、このマドンナは巧みに作られているといえるのです。

続いて、リリーと他のマドンナの背景についてです。以前、キネ旬は、評論家を対象に、シリーズ全48作を対象にした寅さんベスト10を企画、発表しました。参考までにご紹介しますと・・・

第10位 口笛を吹く寅次郎/紅の花

第9位 柴又慕情

第8位 ハイビスカスの花

第7位 知床慕情 ★

第6位 望郷篇 ★

第5位 続・男はつらいよ

第4位 忘れな草 ★

第3位 夕焼け小焼け

第2位 相合傘 ★

第1位 男はつらいよ(1作目)

ランキング入りした11作品中、北海道ロケがなんと4本も入っています。(スタッフ補足:★印が北海道ロケです)。ここから見えてくるのは、いかに北海道が、寅さんシリーズでロケ地として重要な位置を占めているか、ということです。

ちなみに、マドンナベスト10もあり、リリー(浅丘ルリ子さん)はダントツ1位!芸者を演じた松坂慶子さん、太地喜和子さんもランク入りしています。ここから言えるのは、寅さんと同じ流れ者、フーテン性を持つマドンナの出演作に傑作が多いということ。ちなみに、私は木の実ナナさんの「わが道を行く」が好き。いい作品だと思います。ということで、もし48作の中からレンタル作品を選ぶとき、寅さんと同じ境遇、職業のマドンナ、ということを指針のひとつにしてはいかがでしょうか。

(後編へつづく)

小樽ショートフィルムセッションDVDが寄贈されました

本日は、小樽から届いた寄贈品をご紹介。

小樽ショートフィルムセッションの

受賞作品を集めたDVDです。

小樽ショートフィルムセッションとは、2009年に始まった

小樽フィルムコミッション主催のコンテスト。

今までにない視点で表現された小樽の短編映像を募集し、

新たな小樽の魅力を発見するのが目的だとか。

※詳しくは公式サイトへ

http://www.otaru-fc.jp/modules/tinyd1/index.php?id=1

2回目の昨年は、

「壁男」の早川渉監督、コピーライターの三浦清隆さん、

そして、(先日ミュージアムにお越しくださった)

島田英二監督が審査員を務めています。

コミカルあり、シリアスあり、アニメーションもあり。

数分の中に人間ドラマが凝縮されたショートフィルムの世界。

小樽発の新しい才能を、

ぜひミュージアムで見つけてみてください。

過去の「スイート・ハート・チョコレート」情報を更新しました

篠原哲雄監督の日中合作映画「スイート・ハート・チョコレート」。

ホームページリニューアル前にアップした

過去のブログ記事を更新しました。

http://kitanoeizou.net/blog/?cat=17

札幌での記者会見レポートです!

未読の方はどうぞ。

過去の「しあわせのパン」情報を更新しました

洞爺湖月浦でロケされた

原田知世、大泉洋さん主演の「しあわせのパン」。

(C)2011『しあわせのパン』製作委員会

7月6日に、DVD&ブルーレイが販売になるそうです!

ホームページリニューアル前にアップした

過去のブログ記事を更新しました。

http://kitanoeizou.net/blog/?cat=15

監督と主演者2人へのインタビューもありますので、未読の方はぜひ!

第5回「北のシネマ塾」が終了!

恒例のミュージアムイベント「北のシネマ塾」が、

昨日19日に開催されました!

5回目となる今回のテーマは、

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」

浅丘ルリ子さん演じるマドンナ・リリーさんが

初めて登場するシリーズ11作目。

その出会いの場所が北海道・網走なのです。

トークを担当するのは、理事で映画研究家の高村賢治さん。

司会の佐々木純副理事長が

「学芸員」「映画博士」「生き字引」と紹介する通り、

時間のある限り映画を鑑賞し、愛し、味わう方です。

そんな高村さんならではのマドンナ分析や

寅さん情報がふんだんに盛り込まれたトークの内容は、

後日詳細をレポートいたします!

乞うご期待。

「探偵はBARにいる」台本が寄贈されました

今日も気持ちの良い青空の札幌です。

さて、昨年大ヒットした札幌ロケ「探偵はBARにいる」(橋本一監督)。

(C)2011「探偵はBARにいる」製作委員会

昨日、プロデューサー須藤泰司さんが再びご来館くださいました!

札幌ご出身の須藤さんは、これまでも

インタビューにお答えくださったり、

ポスター&宣伝スチールをご提供くださったりと

ミュージアムにご協力いただいています。

昨日お持ちくださったのは、なんと、映画台本!

「完成した映画と比べてみると面白いですよ。

ぜひ興味ある方に読んでもらってください」とのこと。

ありがとうございます~!

せっかくなので、もう1枚パシャリ。

お約束の変顔(?)です(笑)

ということで、さっそくミュージアムに展示。

ご希望の方は、閲覧できますので

スタッフにお申し付けください。

第二弾の製作も決まっているこの作品。

あのコンビが、再び札幌で活躍する日が楽しみですね。

過去の「僕等がいた」情報を更新しました

釧路ロケで注目を集めている「僕等がいた」。

現在、道内でも前篇・後篇が上映されています。

※詳細は公式HPをご確認ください。

http://bokura-movie.com/index.html

ホームページリニューアル前にアップした

過去のブログ記事を更新しました。

http://kitanoeizou.net/blog/?cat=14

合同記者会見レポートなどもありますので、未読の方はぜひ!

明日19日は「北のシネマ塾」です

あす19日(土)午後2時からは

恒例のミュージアムイベント「北のシネマ塾」。

5回目のテーマは

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」。

ミュージアム理事で、映画研究家の高村賢治さんが

北に見るマドンナ・リリーの生き方について語ります!

寅さん好きはもちろん、初めての方でもきっと楽しめる内容。

入場無料、当日参加可。

ぜひお越しください。