ミュージアム恒例の「北のシネマ塾」第5回目(5月19日)。
「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」をテーマにした
高村賢治理事のトークは、ロケ地網走、
そして、寅さんにとっての「旅」に広がります。
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続いて、ロケ地となった網走についてお話します。
網走は、北海道の中で4番目にロケが多い場所。どうしても「網走番外地」のイメージが強く、へき地という感じですが、この「忘れな草」は、そのイメージを変える起爆剤になったと思います。この作品では、マドンナ・リリーのキャラクターに合わせて、落ちぶれた女の行き着く先、哀れさ、はかなさを反映させる場所として登場しています。土地をうまく生かした描き方といえるでしょう。
当時のパンフレットなどによると、実は寅さんとリリーの出会いは違う設定だったようです。根室本線の花咲駅でカニを食べていた寅さんが、リリーと出会う、ということだったとか。しかし実際は、石北線の夜行列車の中になりました。確かに、カニを食べながら・・・ではちょっと違う印象だったでしょう(笑)。
また、隠れた狙いとして、長谷川伸の「一本刀土俵入り」に出てくる女性の役柄もリリーに投影させているようです。役者に関してお伝えしますと、リリーの母親役は、利根はる恵さんという大ベテラン。代表作に山本薩夫監督の「真空地帯」(52年)があり、娼婦の役で見事な演技を見せていました。残念ながら2005年にお亡くなりになりました。リリーの夫役は、毒蝮三太夫さん。ウルトラマンなどでご存知の方も多いでしょうが、実は子役時代に成瀬巳喜男監督の「鰯雲」(58年)に出演していますので、ぜひ見てみてください。
細かい点ですが、劇中に出てくるリリーの歌に関する質問も少なくありません。網走で父を見送る家族を見るシーンで、リリーがちらっと歌うのは「越後獅子の唄」。全国を回る浮き草家業の人物が登場する「とんぼ返り道中」(51年、斎藤寅次郎監督)という映画に出てくる歌で、やはりこれもリリーのキャラクターとリンクさせています。
最後に、寅さんやリリーにとって「旅」とは何なのか。なぜ、旅をしなければならないのか、について考えました。それは、長谷川伸の世界に非常に近いものがあるのではないでしょうか。事実、「続・男はつらいよ」で、見事に、寅さんと「旅」に関するひとつの答えが出されています。これは、寅さんが自分の母親を探し、見つけたものの、ミヤコ蝶々演じる連れ込み宿のおかみさんだった。自分の母親像が崩れ、ショックを受けたことが原動力になって、旅につながるんです。
このように、生い立ちや舞台、職業などをひっくるめて、私が考えるリリーの生き方をお話しました。
ちなみに、時代背景として、1973年は7月に日航ハイジャック事件があり、10月にはオイルショックがありました。この作品は8月に公開されており、劇中、寅さんがリリーにレコードの売れ行きを問われ、「お互い様さ。この時代、不景気だからな」というセリフがありますが、これはその後の社会状況を見事に言い当てた、シナリオの名言といえるでしょう。
(拍手)
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さて、意外なリリー誕生話や寅さん考が展開された
高村さんの「北のシネマ塾」。
いかがだったでしょうか。
次回は・・・
6月16日(土)午後2時~
「さっぽろ映画館グラフィティー③
熟成した昭和50年代の映画館」を開催します。
あの3人組と、懐かしの映画談議を楽しみましょう。