11月17・18日に開催された
「第20回星の降る里芦別映画学校」

2日目のゲストトークのつづきをどうぞ。
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最新作「この空の花」の制作秘話を語り合ったゲストトーク。
梅田正孝・芦別映画学校実行委員長も登場し、

話題は来年の芦別映画に。
梅田さん/いつも映画学校が始まるときに、(映画学校を立ち上げた市職員、故・鈴木)評詞(ひょうじ)のお参りをしてくださって、そのつど私たちも報告し、成功を祈っています。

芦別の120年間の歴史の中には、泣いたり笑ったり、大火や冷害があったりし、そして今、私たちが暮らしています。それを、子どもたちに何らかの形で伝えられたらと思っています。きっと評詞も、尾道でおじいちゃんに案内してもらったときの気持ちは同じだったでしょう。その心を継いで、20回目までやってきた夢が、こうして花咲くことが非常に嬉しいです。

大林宣彦監督/芦別の話題になると、ご登場いただきたい方がまだいらっしゃるのですよね、恭子さん。
大林恭子さん/この20年間、映画学校を一生懸命支えてくださった方々がたくさんいらっしゃいますが、中でも私と誕生日が一緒の石川睦子さん! どうぞ。(拍手の中、芦別の映画学校実行委員・石川さんが登場)

20年間ありがとうございます。芦別映画は、来年の5月中旬、サクラが咲くころにクランクインしたい。芦別の美しい風土、四季を入れたいと思います。この四季の中で、みなさんが過ごしてきた様、芦別の心を未来に伝えられる映画にしたいと思っています。
石川さん/振り返ると、この映画学校が始まる時に、鈴木(評詞)さんからこんなお願いがありました。「僕は大林監督の心を掴むことができます。でも、大林監督が動かされるのは恭子さんです。石川さん、恭子さんの心を掴む役目をお願いします」。驚きましたけれど、私はそれから、恭子さんとしっかり心をつないできたつもりです。そして今回、芦別映画を作るという大変な決意をしていただきました。

私たち芦別に住む市民にしてみれば、「何もないこんな場所で、どうやって映画が撮れるんだろう」と思いますけれど、監督も恭子さんも「素材はたくさんあります。なんといっても、ここに住む人の心が美しい。ぜひそれを映画に撮りたい」とおっしゃってくださいました。1万6000人しかいないこの芦別で、大林監督による映画が撮れるんです! 私たちは撮影が始まる来年に向けて、しっかり準備をしたいと思っています。そのためには、市民のみなさんのお力がなければできません。大林監督と一緒に、芦別の歴史を作りましょう。お力をください! よろしくお願いします(拍手)

大林監督/石川さんの言葉に、この20年間、映画学校を支えてくれた芦別ふるさと自慢のみなさんの顔がお一人お一人浮かびます。

まさに「映画作り」とは、無謀な作業であります。何もないところに一歩踏み出す冒険でもあります。だって、映画がなかったらスクリーンは真っ白。そこに、人の願いや想いや夢や希望が、画となって、音となって登場する。そのことが、私たちの未来をさし示すひとつの志、勇気、希望につながっていくと思います。

単に甘い、美しい口当たりのいい映画ではなく、厳しい、より難しい未来を生きる若者たちに何かひとつの道筋が見える映画になるかもしれません。そのためには、過去をきっちり検証しながら未来への筋道をより明確に作っていく、そういう映画作りになると思います。さて、(劇団「弘前劇場」を主宰し、芦別映画の原作を担当する劇作家)長谷川(孝治)さん。

長谷川さん/はい。今回、私は芦別映画の原作400枚を書かせていただきました。内容は、70歳のきちっとしたプリンシブル(主義・信条)を持った男と、40歳の凛とした女性のラブストーリーが中心です。

何もないといっても、みなさんそれぞれ物語を持っているわけですから。それをどういう風にして書いて、ふるさとはどういうことなのかを考えるのが僕の仕事です。そこで、自分の主張・価値観を持った、戦争を体験した男と、40歳の凛とした女性が登場します・・・が、それ以外のことはなかなか言えません。ただ、こういう女性が、きっと芦別にはいるという映画になると思います。
大林監督/映画という芸術の素晴らしいところは、目を背けたい、知りたくないような、つらい・苦しいことですら、面白く楽しく、美しいものにするから風化せず、人々がいつも考えることができること。芸術のジャーナリズムというのは、そういう狙いにつながる道筋を示すものです。

さて、画面に登場する風景、そして俳優さんたちが、そうした私たちの想いを伝えてくれる重要な被写になるわけです。一般的な商業映画と違い、スケジュールが空いてるからこの役者さんを使う、というのは、我々の映画にはありません。人として信頼できる仲間が今日も来てくれていますが・・・何も話してないけれど、この映画に出るんだよね、あなたたちは。どうですか、猪股南さん。
猪俣さん/(突然話題を振られて驚いた様子)・・・はい。びっくりしているんですけれど・・・。
大林監督/今回の芦別の旅はいかがでしたか。

猪俣さん/外が寒かったので、昼食にいただいたガタタンがすごく美味しかったです。美味しい手作り料理を昨日も今日もいただいて、本当に暖かい方ばかりで、またぜひ来てみたいと思いました。(拍手)
大林監督/ガタタンは、20年前、僕も恭子さんと感動して、「撮影中にこのガタタンが出たらいいな、楽しいな」と思ったんです。だから、ガタタンを食べて美味しいなと感じたあなたは、映画人なんだね。でも、ご紹介したように猪俣さんは女優さんでも、女優志望でもありません。学校の先生になろうとしている人なんです。そういう普通の、常識的な賢い人を、私はできるだけ登場させたいと思っています。それでも、学校など大切なことを優先させてほしい。あなたの人生の中で、何かご縁があれば、また映画に出てくれる気持ちだけはあるよね。
猪俣さん/はい、よろしくお願いします。(拍手)
大林監督/そして、寺島咲さん。彼女は私の作品でデビューし、ベテランの女優さんに育ってくれました。あなたはプロだから出てくれるよね(笑)

寺島さん/前にちらっと北海道で映画を作りたいというお話を伺っていました。大林監督の作品に出演させていただけるなら、ぜひお願いします!(拍手)
大林監督/映画は学校。人としての美しさを、どんどん磨いてください。さて、その道の大ベテランの村田雄浩さんはとても忙しい方ですが、いかがでしょうか。
村田さん/大林作品の中に存在するということは、きっと多くの俳優の夢。私も当然、その中のひとりです。ましてや芦別は、前回、南原(清隆)君と来た時に、このステージで嫁にプロポーズしたことがありまして(笑)、そういう意味では思い出の地。ここで何か撮れるというのは、私にとってものすごい宝になるだろうなと思います。もし、そういう機会をいただけるのなら、ぜひよろしくお願いします(拍手)

大林監督/これまでも日本各地のふるさとで撮影してきましたが、この芦別映画で、仲間がまたひとつ増えることになります。20年目を迎え、未来に向けての大切なことを考えなきゃならない。そういうことを思慮深く、きちんと考え、「我がふるさとを一歩一歩穏やかな日々に導いていきたいな」と思っていた鈴木評詞君の願いと想いと夢が、鈴木くんを覚え、愛してくださる方たちのふるさと愛に支えられて、今もちゃんと生き続けて、未来に向かってようやく実現することになります。また、芦別映画でお会いしましょう!(拍手)

さて、いかがだったでしょうか。
来年の桜が咲く5月ごろ、クランクインするという芦別映画。
映画作りという未知の世界に対する
芦別の希望と不安、そして大きな熱意を感じました。
トークに何度も登場した鈴木評詞さんという方。
映画学校の公式サイトにも紹介ありますが、
実はこの鈴木さんが学生のころ、大林監督の「さびしんぼう」に感激し、
ロケ地・尾道を旅したことが、この映画学校の始まりでした。
若くして亡くなってしまった鈴木さんの想いを引き継ぎ、
映画学校を継続した仲間たちと大林監督は
毎年、お墓参りを欠かさないそうです。
実はこの日の午前中も、しっかり手を合わせていました。

そうしていよいよ、クランクインに向けて始動する芦別映画。
今後の動向を注目したいと思います!