池谷薫監督来訪、「先祖になる」を語る

日本を代表するドキュメンタリー映画作家の一人、池谷薫監督が30日、北の映像ミュージアムを訪れました。池谷監督は2011年3.11大震災後のふるさと再建に立ち上がる77歳男の姿を捉えたドキュメンタリー映画「先祖になる」を今年2月に発表、道内での上映推進のため来道中です。

北の映像ミュージアムに展示の映写機に見入る池谷薫監督

監督が道内ロケ地マップなどの館内展示を熱心に見終えるのを待ってインタビューをお願いしました。(以下、聞き手はNPO法人「北の映像ミュージアム」副理事長・喜多義憲)

喜多 お忙しい中、ようこそ「北の映像ミュージアム」に来ていただきました。昨夜、道新ホールでの試写会を見ました。ほぼ満員の観客からは時折、明るい笑い声がもれましたね。震災をテーマにしたドキュメンタリー作品にしては珍しい。

池谷 私はこの作品を、3.11以後数多く撮られた、いわゆる「震災映画」とは思っていません。陸前高田で私が出会った佐藤直志という魅力あふれる男の生きざまを見てもらいたかった。東北人の自虐的な笑いをありのまま伝えられたと思います。

「これはいわゆる震災映画じゃない。一人の男の生きざまを描いた」と語る池谷監督

喜多 津波で息子を亡くし、自宅も修復不能。それでも、被災直後に自宅再建を周囲に宣言、自ら山から原木を切り出すし、その年の田植えもあきらめない。新築の居間から満足そうな柔和な目で夕日を眺める顔。ラストシーンは見事でした。

池谷 直さんは人間性豊かでユーモアと茶目っ気の人。こちらが描いたシナリオを裏切って、次々といろんな顔を見せてくれました。

喜多 「先祖になる」というタイトルに込められた監督の思いは?

池谷 77歳の男にとって、自分の生きているうちに、町を完全に再建するのは無理だろう。それでも、仮設住宅入りを拒否して、震災直後に自分の手で自宅再建に立ち上がり、自分がこの町の新しい先祖になるんだという不屈のメッセージです。

喜多 劇場上映がひと段落し、これから自主上映にも力を入れるようですが…。

池谷 はい、北海道のたくさんの人たちに見ていただきたいと思っています。「先祖になる」公式サイト(http://senzoninaru.com/)の「自主上映会へのご案内」をごらんください。

喜多 ありがとうございました。

<参考>本作は、中国残留日本兵の悲劇を描いた傑作ドキュメンタリー「蟻の兵隊」が記録的なロングランヒットとなった池谷薫監督の最新作。震災からひと月後に陸前高田を訪れた撮影チームは、そこで佐藤直志というひとりの老人と運命的な出会いを果たす。復興への夢を語る彼の姿に見惚れた池谷は、前作に引きつづき孤軍奮闘する“ガンコ老人”を追うことを決意。寄り添うように撮影を重ねながら、困難に屈しない“日本人の底力”を描き出していく。撮影期間1年6ヵ月。東京~岩手往復の走行距離は5万キロに達した。昭和1桁生まれの主人公が示す矜持は、戦争や災害から立ち直ってきた日本人とは何なのか、人が生きていくのはどういうことなのか、真っすぐに語りかけてくる。(「先祖になる」公式サイトより

会報21号を発行

「北の映像ミュージアム」会報No.21が出来上がりました。A4版4ページ。中面の見開き2面では5月に第4代NPO理事長に就任した佐々木純さんの”所信表明”ともいうべきご挨拶「もっと愛される『北の映像ミュージアム』へ」3面には9月21日、狸小路の「札幌プラザ2・5」で開いた「シネマの風景 特別上映会」のリポート。会員のみなさまへ発送していますので順次お手元に届くと思います。

佐々木新理事長はご挨拶の中で①北の映像ミュージアム館内の資料、展示をより充実させる②個人会員、企業・法人のパトロネージュ会員参加を呼びかけ③札幌だけでなく、全道で上映会などの催しを行い、映像ミュージアムの存在を広く知ってもらうーなどと意欲を述べています。

4面連載の「川本三郎が語る 高峰秀子とその魅力③」ではいよいよ佳境。「高峰さんは、女優であることが大嫌いな女優で、映画界の雰囲気に染まらなかった人です。撮影が終わっても、飲みにいったり遊びに行ったりしなかった。あの人ほどスキャンダルと無縁な人はいません」と川本さんは素顔のデコちゃんを紹介しています。

1面は映画の話題からちょっと離れて、モンゴルの首都ウランバートルにある国立オペラ・バレエ劇場は、終戦直後の1945年から抑留日本将兵によって建設が進められた、という秘話を紹介しています。

エカテリーナ2世女帝の憐憫―北のシネマ塾参加に感謝

昨日19日、北の映像ミュージアムで月例、北のシネマ塾を開催しました。不肖喜多義憲が担当、「おろしや国酔夢譚」(1992年、大映、佐藤純彌監督、緒形拳主演)を見ていただきながら、1991年の奥尻島ロケや、映画のハイライト、ロシアの帝都ペテルブルグ(現サンクトペテルブルグ)での女帝謁見エピソードなどを語らせていただきました。

映画「おろしや国酔夢譚」に見入る北の映像ミュージアム会員たち

映画では、フランスのロシア系女優マリナ・ブラディ演ずる女帝エカテリーナは大国屋光大夫の語る遭難漂流談にしばしば「可哀そうに」とつぶやくシーン。これは光大夫からの聞き取り録として残っている「北槎聞略」(ほくさぶんりゃく)に記述があります。これは18世紀の大国の絶対権力者が異国の漂流民への深い憐憫の情を示した史実です。

喜多の映画解説を熱心に聞いていただきました

また、江戸時代、列島を行き来する千石船は物流の積載性に優れている半面、舵が壊れやすく、甲板の水密性が悪いため荒天にもろい弱点があり、船の遭難、漂流が頻繁に起きていたことなどを紹介しました。当時厳しい鎖国政策が敷かれていたことも、造船技術の発展を妨げていたようです。

漂流民である光大夫一行の帰国支援ための女帝謁見実現には、知識人キリル・ラックスマンの献身的な友情がありました。国と国との交流は実は人と人との心の交流に他ならない、というのが、私のこの作品の見方であることもお話しました。

私は新聞記者上がりで、文字を書き連ねるのはそう不自由を感じませんが、おしゃべりが下手で、旨くまとまらないの歯がゆい。最後に一番大事なこと話そうと思っていて失念してしまいました。

それは、光大夫らが帰国したとき、「理由いかんにかかわらず、禁制の海外渡航から帰国した者は罪人」という扱いを受けたが、その一方で、上記北槎聞略ほか、光大夫のロシア情報を詳しく録取した成果はひそかに検討され、約半世紀後にペリーらの来航によって開国を迫られた時の対応に役立てられた、ということ。

これが思い出せなかった。ザンネン。

この日の北のシネマ塾には20人ほどの会員に来ていただきました。ありがとうございました。来月も第3土曜16日午後2時から開催されます。奮ってご参加を。

漂流民大黒屋光太夫はなぜ国際人になったか?

あさって19日(土)午後2時から、北の映像ミュージアムで大映映画「おろしや国酔夢譚」(1992年)についてのトークを担当することになっています。「北のシネマ塾」という月1回の当館企画です。そこで、今、映画の同名の原作を書いた井上靖が主要な資料とした「北槎聞略」を札幌中央図書館から借りて読んでいます。

帰国後の1793年、将軍に謁見した時の大黒屋光太夫(左)

「北槎聞略」(吉川弘文館版)は漂流遭難から10年後、数奇な経験をへて帰国した光太夫を事情聴取した蘭学者桂川甫周がまとめたもの。そこに描かれている光太夫は一介の船乗りではなく、博覧強記、好奇心旺盛の冒険家、世界観を持つコスモポリタンであることをうかがい知れます。

北槎聞略(吉川弘文館刊)

また10年間の外地生活で得たロシア語のボキャブラリーの豊富さ。フランスの著名な冒険家レセップスがカムチャツカ半島で光太夫と邂逅、類まれな人物であることを旅行記に書き残しています。それによると、帰国への展望が開けない初期でさえ、きちんと日記をつけていたと、いう。

桂川の助けを得て、ひらがなで示したロシア語の単語、文例集は当時話されていたロシア語の発音を示す貴重な例証となっているそう。つまり、ロシア語をキリル文字で表記しても、oの発音がオなのかアなのか類推できないように。

今回学んだ事を含めて、映画で描かれたコスモポリタン大黒屋光太夫の実像に迫りたい。さらには光太夫を取り巻く人間群像、1991年にクランクインした奥尻を皮切りに、イルクーツク、サンクぺテルブルグ(撮影当時はレニグラード)での撮影秘話などをご紹介します。

(この項、文責喜多義憲)

18日(金)から「劇団新劇場」の定期公演

劇団「新劇場」の第62回定期公演が10月18、19、20日の3日間、やまびこ座(札幌市東区北27条東15丁目=地下鉄東豊線元町駅2番出口徒歩5分)で行われます。上演作品は「神露淵村夜叉伝」(石山浩一郎・作、菅村敬次郎・潤色、演出)。

劇団「新劇場」の第62回定期公演「神露淵村夜叉伝」

開演は18日(金)=19時、19日(土)=14時と19時、20日(日)=11時と14時。料金は大人当日2,500円(前売り2,000円)、中高生当日1,200円(同1,000円)、小学生は当日、前売りともに500円。前売りは教文、大丸、道新各プレイガイドなど。問い合わせは同劇団090-2070-8567(栗原さん)、080-2875-1606(武田さん)へ。

 

真剣で立ち回りをした月形龍之介

1本のチャンバラ映画の最初の字幕(今はエンディングですが)の中に「殺陣(たて) だれそれ」という表示があったのを憶えていますか。今もそう呼ぶのだろうか。剣の振り方、構え方、人の斬り方、倒れ方などの段取りを構成していく仕事ですね。殺陣師になるには大変な年期と修行と経験が必要でした。その殺陣のプロたちから見たチャンバラの上手い俳優が、時代劇全盛時代に7人いたというお話。殺陣師仲間は「七剣聖」と呼んでいました。

 長谷川一夫 常に舞踊的。藤間流の奥義を華麗なフォームの中に生かし立ち回りを見せる。殺陣師のつけた型をそのまま美化して自分の型にはめ込んでいく。

 片岡知恵蔵 殺陣師の大衆性と、本格的武道の型を取り入れて独創的な迫力を表現する第一人者。高野弘正という武道師範がいつもついているので、知恵蔵の型に嘘はない。

月形龍之介 剣聖中のリアリスト。剣戟(げき)にはいつも真刀をを使って、リアルさを表現。どんな猛チャンバラでもいつも真刀を振り回し、しかも斬られ役を傷つけたことは一度もない。映画界きっての剣の達人。

大河内傳次郎 余裕しゃくしゃくぶりを見せる剣聖。殺陣師の意見通りに立ち回りながらも、役柄の性格を表現していく貫禄。

阪東妻三郎 専属の殺陣師がいた。殺陣師通りに立ち回り、殺陣師も常に阪妻のために新しい型を創案した。阪妻映画のフォームの素晴らしさの陰に殺陣師あり。

市川右太衛門 剣聖中の技巧派。常に新しい型を創案するように殺陣師に命じるから、殺陣師も右太衛門映画には苦労した。

嵐寛寿郎 斬られ役が巧いことが殺陣の生命であるというのが持論。常に斬られ役を週十人専属にさせて、松竹に出演する時でも新東宝に出る時でも必ず、専属者を同行させる。

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映画世界社発行「映画ファン」1953年9月号

以上、映画世界社発行「映画ファン」1953年9月号より要約しました。北の映像ミュージアムは映画に関する単行本、雑誌など、大図書館にもない貴重な資料を所蔵しています。ワタクシ、案内役の当番のとき、忙しくなければ、蔵書の中から、オールドファンだけでなく若い人にも興味を持っていただけそうなエピソードを探し出して紹介してみようか、と思っています。お楽しみに。                                   (喜多)

それからもう一つ。明日10月15日は火曜日ですが、本日「体育の日」の振り替え休館になります。16日は通常通りの開館です。

14日(月)は祝日開館します

10月14日は体育の日。月曜日ですが、開館します。10時~14時は本間、14時から18時は喜多がご案内します。どうぞ、遊びに来てください。映画音楽を聞いたり、北海道ロケした映画(DVD)を視聴覚ブースで見たり、映画関係の書籍、雑誌を読んだり、連休2日目を北の映像ミュージアムでおくつろぎください。15日は振り替え休館させていただきます。

最北のシネマコンプレックスT・ジョイ稚内を訪問

昨日、「T・ジョイ稚内」を訪問、高橋一平(かずひらとお読みします)社長にインタビューしました。日本最北のシネマコンプレックスとして2010年6月にオープン。稚内とその周辺の映画ファンの支持を集めてすくすくと成長しているように見えました。

 

T・ジョイ稚内が入居するキタカラ

1988年に稚内劇場と日本劇場が閉館して以来、留萌・宗谷地方の拠点都市稚内から長らく消えていたシネマの灯が、レンタルビデオ業と建設業を営む2人の地元ビジネスマンの尽力で再び蘇った。誕生から3年、キタの念願だったT・ジョイ稚内訪問がやっと実現しました。

T・ジョイ稚内チケット・コンセッションへの入口付近

市の表玄関、JR稚内駅に隣接した市街地再開発ビル「キタカラ」2階に66席、86席、98席の3つシアターをもち、毎日、洋画、邦画、アニメを上映し、子ども連れからカップルまで好みに応じた作品を選んで観賞できる。

客席98席のシアター3.3つのシアターすべてにペアシート2基、車イススペース1を併設している。

キャパシティー98席のシアター3。ほかのふたつのシアターも含め、それぞれペアシート2基、車いすスペース1を備えている

高橋社長とのインタビューではこれからも適切な上映作品選びとイベントなどの仕掛けで客数をもっともっと伸ばしたい、とファイトあふれる意気込みを見せていました。インタビューのあと、高橋社長が館内を案内してくださり、シアター3でSF映画「エリジウム」を観賞しました。

 

高橋一平T・ジョイ稚内社長(左)とキタ

 

迫力満点の映写性能と音響は札幌にあるシネマコンプレックスに引けをとらない環境でした。座席もゆったりとして快適。少しの間のお試し観賞のつもりが、「エリジウム」全編を見てしまいました。 なお、T・ジョイ稚内訪問記は11月、朝日新聞夕刊連載「ほっかいどう映画館グラフィティー」で詳しく紹介します。

山田洋次監督50周年記念展、旭川で始まる

「山田洋次監督50周年記念展」(同展実行委員会=NHKプラネット北海道、北海道新聞社=主催)がJR旭川駅前の西武旭川店で10日からはじまりました。寅さんシリーズなど山田監督の映画製作半世紀の歴史を振り返る展示のほか、監督自らが編集した「男はつらいよ」全48作品ダイジェスト版(30分間)を上映します。同デパートA館8階催事場、午前9時30分~午後7時。10月20日まで。入場料一般・大学生500円、高校生以下無料。クラブ・オンカード会員は優待料金300円。

映画「じんじん」に登場の絵本が大賞を受賞

本日10月7日(月)は北の映像ミュージアムの休館日ですが、北海道上川郡剣淵町に住む高橋紀子さんからの情報をご紹介します。

「絵本の里」北海道剣淵町を舞台に人の優しさと親子の絆を描く大地康雄企画・主演の映画「じんじん」。劇中、銀三郎(大地)が一人娘、彩香に贈った実在の絵本「クロコダイルとイルカ」(作・ドリアン助川、絵・あべ弘士)が、第23回けんぶち絵本の里大賞を受賞しました。これはストーリーでのお話ではありません。ゲンジツのお話です。

左が市販されている絵本、右は、映画の中で大地康雄さんが実際に描いた絵本

 

この賞は前年の4月1日から、その年の3月31日までに国内で出版された絵本を対象に毎年8月1日から9月30日までの2カ月間、 「絵本の館」への来館者の投票で決まる絵本コンテスト。絵本の館では実際に撮影に使われた絵本を読むことができます。ご存知の方も多いと思いますが、映画の中の絵本と市販されている絵本では結末は違うそう。
なお「じんじん」の全国での上映スケジュールは
すでに終了した分もあります。日付にご注意。