今年で没後30年の女優、夏目雅子さんの特集上映が9月5日から11日まで、東京の早稲田松竹で行われました。命日の11日には出演作のうち、相米慎二監督の「魚影の群れ」などが上映され、助監督を務めた榎戸耕史監督のトークショーが開かれました。
榎戸監督は「相米さんは細かいことは一切言わない。お前がそう思うならいいよ、と。だから女優は考えなきゃいけない。カメラを気にするうちは回らないし、何十回もやらされるので自分か役かわからなくなってしまう。素の自分がでているので、作品を見たくないという女優も多い」と話し、夏目さんについて「冒頭で佐藤浩市に、海好きだかー、というシーンは相手でなく海に向かって言っている。あれは夏目が自分で発見した。佐藤浩市が遭難する最後のシーンは、漁協の階段を上がってくるところからできていて、見つかった、という知らせに何の反応もしないで立つところは今日見ていてゾクッとした。すごい女優だと思った」と振り返りました。
相米組の助監督を13本務めたという榎戸監督ですが、「相米さんが、早く撮らせろ、と言ったのはあのシーンだけ。ありえないこと」と言い、「あの相米さんが夏目のことを、もう1本あいつとやりたかった、と言っていた」と話してくれました。前々日の9月9日は相米監督の命日でもありました。
夏目雅子さんが登場するのは青森ですが、この映画で北海道はロケ地としてばかりでなく、重要な役割を果たしています。榎戸監督はお話の中で「撮影は6月から9月半ばまで。3つのマグロのシーンを残して撮り、大間で8月いっぱいマグロを追って朝7時から夕方6時までただ海の上にいたが、撮れなかった。緒形拳さんが仕事で2週間ニューヨークへ行って、帰るころには戻りマグロも終わるので、マグロを探して北海道に行った。今(9月11日)ごろは北海道に集まっていた。10月の公開まで1か月というころまで撮影していた」と、恐るべき日程で作られたことを披露してくれました。
相米監督の盟友でもあった森田芳光監督の南茅部ロケ作品「海猫」は、「魚影の群れ」と同じ時代設定です。佐藤浩市さんは「海猫」でも主演を務め、偶然ですが、津軽海峡を挟んで同じ時代に生まれたふたつの恋愛の物語を演じています。
なお、「魚影の群れ」には、苫小牧出身の工藤栄一監督が出演しています。大間の病院の下に屋台を出すおでん屋の親父の役で「下北弁がうまくいかなくて、セリフだけ後で録り直した」と北海道新聞の連載で振り返っています。
(理事・加藤敦)