1月の「シネマdeトーク」が開かれました

「やります!」二つ返事で引き受けた健さんの新境地

 恒例の「シネマdeトーク」が1月18日(土)、書肆吉成で開かれました。函館ロケの「居酒屋兆治」をテーマに、北の映像ミュージアムの小田原賢二副理事長が語りました。以下はそのお話です。

 映画は函館の西部地区・金森倉庫周辺が舞台でしたが、山口瞳の原作は東京都国立市のJR南武線谷保駅に近い、つ焼き屋「文蔵」がモデルです。谷保とう街は菅原道真をまつった「谷保天満宮」で知られています。江戸時代からの地主と、新興住宅街に移り住んだサラリーマンが共存している郊外住宅地。1975年、脱サラしてこの地に店を構えた八木方敏さんと奥さんが二人で営んでいた「文蔵」は、10人ほど座ればいっぱいになる小さな店。

 私も近くに住んでいたので何度か訪れました。通学駅となる一橋大学の学生や谷保に住むサラリーマンたちでいつも賑わっていました。山口瞳も常連客でよく見かけたものです。モツをその場で切って焼くのが売りで、八木さんはいつもカウンターに背を向けてモツを焼いていました。奥さんが病になり、店を閉めましたが、三鷹に今もあるバサラという居酒屋がその味を引き継いでいます

「居酒屋兆治」について語ったシネマdeトーク

「居酒屋兆治」について語ったシネマdeトーク

 大ヒット作「南極物語」に続く作品として、以前に「駅 STATION」などで組んだ降旗康男監督と一緒に映画を…と考えていた高倉健さんに、降旗監督は「居酒屋兆治」の台本を渡し、出演を打診したそうです。「正直、断られるかな」と思っていたところ、「やります」という返事。これまでヒーローを演じることが多かった健さんには、名もない庶民役をやってみたいという思いがあったのでしょう。役柄の上でも脱皮を考えていた時期でもあったようです。その後、「鉄道員(ぽっぽや)」「ホタル」、そして最後の作品「あなたへ」など降旗、高倉コンビによる作品が続いていくきっかけになりました。

 主題歌は加藤登紀子の「時代おくれの酒場」。オープニングはおときさん、エンディングには健さんの歌が使われています。歌は77年に作られていますが、「ぜひこの曲で」と健さんが言い出したそうです。函館の花火シーンは道新の花火大会。大滝秀治、小松政夫、東野英治郎、刑事役の小林稔侍ら脇役も芸達者ぞろい。木村大作のカメラも素晴らしい。店は東宝撮影所内のセットです。大原麗子は念願の初共演。薄幸な役柄は孤独な死を遂げた彼女の実人生と重なって見えます。

※3月21日に予定していた書肆吉成での最後のシネマdeトーク「私の好きな映画」は新型コロナウイルスの感染予防のため、残念ながら中止いたします。場所を変えてのシネマdeトークは、日時決定次第、お知らせいたします。