4月「北のシネマ塾」レポート!ソ連映画の傑作「鶴は翔んでゆく」

4/21(土)、ミュージアムで行われたイベント「北のシネマ塾」。

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1957年のソ連映画「鶴は翔んでゆく」をテーマに、高村賢治副館長がトークを担当しました。

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1958年時、日本では「戦争と貞操」というスキャンダラス(?)なタイトルで公開されたという本作。実は、わたしスタッフ・アラタメも、この日司会を務めた和田由美理事も、そして、この日ご参加くださった方々の多くも、どんな作品なのかよく知りませんでした。

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なぜこの映画を選んだのか。
高村副館長は一枚の映画チラシを取り出しました。

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昨年9月、日本公開されたエミール・クストリッツァ監督の映画「オン・ザ・ミルキー・ロード」です。

この作品の前半、ヒロインのモニカ・ベルッチが観て、涙した作品が、これなのだとか! 「わずかですが、ラストシーンが劇中に映ります。そして、この映画に泣いた女性なら結婚相手にふさわしい…という流れになるのです。この作品を選んだエミール・クストリッツァ監督の意図を汲み取りたくて、皆さんと考えたいと思いました」と高村副館長。(わたしはこの映画をきっかけにクストリッツァ監督ファンになったので、大喜びでした!)

というわけで、まずは本作のご紹介を。
映画「鶴は翔んでゆく」は、1941年のモスクワが舞台。

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ヒロインの女性・ヴェロニカ(タチアナ・サモイロワ)は、恋人・ボリス(アレイクセイ・バターロフ)との愛を戦争によって引き裂かれ、さらなる悲劇に見舞われながらも生きていく物語。

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戦後、官僚的映画行政の締め付けで無味乾燥な作品が大半を占めたソビエト。本作は、イデオロギーではなく、男女の恋愛を中心に描き、ソビエト映画初のカンヌ国際映画祭グランプリに!〝ニュー・ソビエト・シネマ〟の到来を世界に発信した名作なのだそう。
全世界の名監督が見て、自作に取り入れています。たとえば、戦後未亡人というモチーフは、『東京物語』『おかあさん』などにみることができます」と高村副館長。

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本作の冒頭とラストに登場する大事なモチーフ「鶴」について、高村副館長は「〝希望〟と〝国の変革〟のイメージを投影し、集約させています」と説明。
そして、この映画の魅力を「悲恋を読み取らせる〝光と影〟」「絵画的な構図の素晴らしさ」「ネオリアリズム的な家庭の描き方」…など次々と解説し、「見事な〝映画言語〟が組み込まれています!」と絶賛しました。

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さらに、「カメラ技術の凄さ」に注目し、その秘密を説明。「まるで生き物のように素早い動きは、劇中の小道具・リスのぬいぐるみをイメージし、それが映画のアクセントになっています。これは、ヴェロニカの性格も表現しているのではないでしょうか」と持論を展開しました。

ほかにも、モンタージュの秀逸なシーンや、映画史における影響などなど、高村副館長ならではの深くて面白い映画の楽しみ方を紹介。ラストシーンに触れ、「赤ちゃんを登場させるのは、次世代への継承を意味し、見事な演出! 北海道を舞台にした名作『大地の侍』にも共通します」と読み解きました。

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最後に、クストリッツァ監督とのつながりについても紹介。劇中に美しい花嫁が出る点を挙げ、「実は、クストリッツァ監督の作品も〝花嫁〟が隠れたテーマなのです」と紹介したところ、参加者の方々も興味深げ。

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実はこの日、たまたま札幌プラザ2・5で、クストリッツァ監督の「アンダーグラウンド」の上映会が予定されていました。ちょうどシネマ塾の直後だったのでご案内したところ、2人の参加者が「行ってみます!」と当日券を買い求めに行かれました。

60年前のソ連の映画が、数々の名作や現代映画につながっていることを実感できる、貴重なひとときでした。ご参加くださった方々、ありがとうございました。

お伝えした通り、「北のシネマ塾」はあと1回(5/19「空の穴」※詳しくはこちら)で終了となります。ぜひ次回もお越しください。

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