「きみの鳥はうたえる」レポート③三宅唱監督×菅原和博さん

いよいよあす9/1に全国公開が迫る

函館ロケ最新作「きみの鳥はうたえる」(公式サイトはこちら)。

札幌・ICCで行われた、三宅唱監督と

映画の企画&製作&プロデュースを手掛けた

函館・シネマアイリス館長の菅原和博さんによる

記者会見レポートをどうぞ!

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菅原和博さん(以下、菅原)/「きみの鳥はうたえる」を映画にしたいと思っていた2015年ごろ、三宅監督の「やくたたず」を見ました。そもそもこの映画化は、シネマアイリスの20周年事業の一環として、自主制作的なスタンスでやりたいと思っていた企画です。原作の「きみの鳥はうたえる」は、佐藤泰志さんの作品の中でも〝青春小説の傑作〟。過去3作(「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」)は、登場人物がわりと年齢が高かったんですが、この作品に登場するのは若者です。佐藤さんの最も本質的な〝若者〟を描ける監督は…と考えていたころ、この「やくたたず」の冒頭の走るシーンや、意味もなくはしゃぐ高校生の姿に、「これはあの小説の主人公たちの高校時代みたいだ」と感じました。それで連絡を取り、お話したのが始まりです。

三宅唱監督(以下、三宅)/僕の気持ちは、まず、ある町の映画館が映画を作り続けていること自体が本当に素晴らしい。こういう時代に映画を作るという、挑戦的な勇気あるプロジェクトに参加させていただくことが光栄だなと思いました。さらに、佐藤さんの原作映画化は3本あって、さらにもう1本作るという、もう、これは映画好きにしか絶対できないロマンに一緒に取り組めることも嬉しかったです。小説を読み、これはほかの監督にはやられたくない内容だと思いました。

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Q.佐藤さんの映画は先行作品が3本ありますが、プレッシャーは?

三宅/先行作品を見て、佐藤さんは、どちらかというと社会や人生の暗い部分を見詰める作家なんだなというイメージを持っていました。けれど、今回の原作を読み、僕が持った感想は、もちろんそういう部分もあるんだけれども、それとは真逆の、人生の明るさや喜びを丁寧に描こうとしている作家だということ。それが新鮮でした。それで、登場人物が若いこともあって、爽やかで明るい映画を作ろうと考えました。そうすることで、作家のイメージがより豊かになっていくに越したものはないと思います。

Q.原作から人生の明るさや爽やかさを感じられた。どの辺りでしょう?

三宅/まず、バイトをサボって店長に怒られてクッと言ってる段階で、ばかばかしいコメディみたいだよなとか(笑)。文体もあって、本人はヒロイックに振る舞ったりしているんですけれど、少し引けば滑稽にも見えたりして、おかしみも感じました。それはやっぱり、人間くさいということだと思います。空気に呑まれるとすかしたヤツに見えるけど、仲良くなると意外と憎めないやつなんじゃないか…とか、小説を繰り返し読む中で主人公のキャラクターを発見していき、さらに何度も読んでいる中で、最後に残った印象って、酒を飲んだり映画を見たり…わりとその辺にいるお兄ちゃんじゃん、と(笑)。それが気持ちよかった。一個一個を一生懸命読むと絶対そうは思わないと思うんですけれど(笑)。

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Q.舞台を現代にした意味は?

三宅/80年代から2018年に、あと、場所を函館に変えたのが原作との大きな変更点です。唯一変えねぇぞと思っていたのは、3人のキャラクター。3人の関係性の変化が面白い小説なので、それは時代を超えて扱おうと思っていました。

Q.ロケ地の函館はいかがでしたか?

三宅/最高でした。雨が降ってほしい日に雨が降り…実は、人工雨のために地元の消防団にスタンバイいただいたのですが結局帰ってもらったり。ここだけは晴れてほしいというシーンは晴れてくれて。函館の街がいい映画を撮らせてくれたなぁと思います。

Q.バストアップや顔のショットが多いような印象を受けました。

三宅/はい。これは、画面の中の大きさではなく、俳優との距離感を大事にしようと思っていました。もちろん、遠くからでも大きく撮ることができるんですけれど、僕は、3人に寄り添うように撮りたいと思ったので、その近さを優先しました。彼らとともにいる感覚を、観客の皆さんにも共有してほしい。彼らと共に、同じ時間を過ごしてほしいと思いました。

Q.それぞれの俳優さんについてのエピソードは?

三宅/(柄本)佑との打ち合わせ場所は近所のサウナで(笑)、隠し事なくリラックスできる環境で映画の話をしました。石橋(静河)は、歳10個くらい違うんですけれど、僕にとっては映画を作るライバルみたいな感じ。いい意味ですごく芯があるから張り合いがあり、好敵手という感じ。あと、被写体として楽しい。コロコロ変わっていくので。そして、染谷将太。彼とは、彼が成人を迎える前から友人でよく遊んでいたんですが、みるみるうちに有名になって、今や空海なんか演じちゃってて(笑)。なかなか仕事する機会に恵まれず、念願の機会でした。できあがった映画を本人もとても気に入ってくれているので安心しました。

Q.映画の原作とはラストが違います。その意図は?

三宅/小説で描かれる事件も興味深いんですけれど、あれを映画として丁寧に描こうとすると、僕は映画2本分必要なんじゃないかと思いました。そこで、ここは3人の青春の時間、3人が過ごしたかけがえのない時間をどれだけ描けるかに、全エネルギーを注ぎましょうとなりまして、ラストはオリジナルとして作らせていただきました。

Q.ラストシーンの石橋さんの表情、凄かったです。撮影の際、何かアドバイスは?

三宅/あれは、ロケ最終日に撮ったカットでした。だから、彼女としては、この物語を演じていけば、最後にこの顔に至るんだというスケジュールになっていて…演出はと問われれば、本当にその撮影スケジュールなんじゃないでしょうか。彼女は無我夢中で映画の中にのめり込み、それまでに全てのシーンを演じ終えています。彼女のコントロールできないものが映っていると思います。僕は、タイミングと場所を用意しただけです。

Q.一発OKですか?

三宅/すみません、5テイクやりました。…なんですみませんと言ったんでしょう、僕(笑)

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Q.これからご覧になる方々に、見逃してほしくないシーンは?

三宅/全シーンがそうといえばもちろんそうなんですけれど、やはり…あぁ、でもやっぱ全シーンと言っておきたいです! 3人の一挙手一投足がどれもかけがえないものですし、二度と撮れないと思います。それは俳優にとってもそうですし、僕も歳をとって20代の物語を撮ったら絶対違うものになるはず。そのかけがえのなさを、全員が受け止めて撮れた映画かなと思います。強いて言うなら、それがラストの石橋(静河)の表情に表れています。

Q.完成作を見た菅原さんのお気持ちは?

菅原/初号のとき、「これだよ!」と感じました。三宅監督にお願いして良かったなと、僕自身はすごく満足しています。

Q.今後について?

三宅/北海道で暮らしたことのある監督じゃないと撮れないものって絶対あると思うので、ぜひ何か撮りたい。でも、北海道に住んでいたのって19歳までで、まだまだ知らないことはたくさんある。だからちゃんともっと色々なところへ行って、色々な人の話を聞いて、そこから作りたいなと思います。もっと真面目に、大人になった自分で道内を旅行してみたいです。

菅原/まずはこの作品を大成功させたいのが第一の思いです。次は…チャンスがあれば、僕の場合、佐藤泰志さん一本ですけれど、どうなりますか。まずは、この映画を多くの方に観ていただきたいです。

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(おわり)

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