ミュージアム開館一周年記念上映会
「シネマの風景フェスティバル2012」
のゲストトークレポート2回目。
「雪に願うこと」の根岸吉太郎監督と
プロデューサーの田辺順子さんのお話をどうぞ。
司会進行は和田由美事務局長です。(以下、敬称略)
* * *
和田/あのー・・・たぶん根岸監督は、頼まれても何しても、自分の嫌いなものはやらないと思うんですけれど(笑)、この企画のどこに惹かれたのでしょうか。
根岸/最初は、「移動する・流れる」ことに興味を持ったんですよ。今、ばんえい競馬は帯広でずっとやっていますが、最初に僕がこの企画の話を聞いた時には、帯広・岩見沢・旭川・北見の道内4カ所が開催地でした。馬と一緒に人間の大集団が移動して次の開催地に行き、シーズンを過ごし、また次の場所へ向かっていく。まるでサーカスのような、ひとつの村・町が移動していく姿が、非常に面白いなと思ったんです。ただ、「移動」というテーマは、作品を作る中で別な形になりましたけれど、そうやって生きている人たちの面白さや力強さ。そういうことに、最初は興味を持ちました。
和田/帯広での真冬のロケで監督するということは、どういう大変さがあるのか、お聞かせいただけますか。
根岸/ひとつは動物ですからね、言うことをきいてくれないじゃないですか。ですから、僕のチームの助監督が一カ月以上前に現場入りして、映画の仕事ではなくて、ずっと厩務員をやっていました(笑)。もう、裸であの大きな馬に乗れるくらいになって、操っていましたね。彼は、ロケを終えて帰る時、「あんたは優秀だからぜひ残ってくれ」なんて言われていました(笑)。その助監督は小林聖太郎といって、「毎日かあさん」などの監督をして、監督協会の新人賞もとりました。
佐藤浩市さんも「馬に慣れたい」と言って、撮影より何日か早めに現場入りし、馬に乗ったり、いろんなことをして雰囲気をつかんだりしていました。だから、物語とかお芝居を撮るのではなく、気分はドキュメンタリーというのかな、そこに人が入り込んでものを作っていくというスタイルでした。
和田/朝早く、馬が息を吐くあの情景は、嘘では作れません。35ミリフィルムならではのすごさですよね。
根岸/肉眼で見てもすごいんですよ。朝4時ごろ、撮影の準備に入ると、遠くから馬がきます。最初は固まっているんですが、それがまるで、湯気の固まりが昇っているように見えるんです。その湯気がちょうどライトで逆光になって、ふわーっとあがっている。先ほど、ちょうど「点と線」が上映されて、機関車が出てきましたけれど、ばんばの大きな馬って、ちょっと機関車みたいだよね。そういう生き物の力強さ、それ自体が面白いというか、それをカメラにおさめたいと思いました。寒い場所で、息を吐きながら生き物が動いている、向かってくるだけで、もうなんか話なんかいらないや、というか(笑)。
和田/もともと「輓馬」は、世界に一つしかありません。それをフィルムで残したということは、まさに、世界にひとつしかないフィルム、ということになりますよね。
根岸/冬の朝のきりっとした空気の中の馬って、すごく美しいですよね。それは前から一回撮りたいなと思っていました。
和田/伊勢谷友介さんは、どなたがキャスティングされたんですか。
田辺/それは私です。あの役は難しい設定なので、2年くらいなかなか俳優さんが決まらなかったんですね。伊勢谷さんはその頃、そんなにテレビに出てないですし、知名度はなかったのですが、私は注目していまして、根岸さんに資料をお見せしました。そうしたら、「いけるかもしれない」と言うことになりまして、その後も試行錯誤があったんですけれど、最終的に伊勢谷さんにお願いして良かったと思います。
和田/現場ではどうでしたか。
根岸/初めて会った時の彼の印象は、すごく良かったんですよ。あれは地味な役柄で、どこか格好悪いと思われがち。それで気乗りしない俳優たちが多い中、意外とわかった子だな、と思いました。でも、最初に俳優さん全員が集まる「本読み」ですごくセリフがたどたどしくて(笑)、「おいおいコイツを選んじゃったぜ」と不安になりました。当の本人は「全然セリフ入ってないわ、ちょっと自分ナチュラルだからな」みたいな感じでしたけれど(笑)。
北海道でリハーサルを始めても、全然ものになりそうもなくて、「一体どうなっちゃうんだろう」と思っていたんです。たぶん、スタッフも同じように思ったはず。「えらい現場きちゃったな、自分たちどうなっちゃうんだろう」というのが、表情でわかるんです(笑)。でもね、映画の中で人って育つんですね。ある緊張感の中で、彼はどんどんあの役になっていきました。それは、兄役の佐藤浩市という俳優さん、彼の存在です。伊勢谷くんは彼を「アニキ」と呼び、佐藤さんは「なんだこんなダメなヤツ、しっかりしなきゃだめだ」という感じで接するんですが、そのセリフと状況がほとんど一致しているという緊張感(笑)。もう、ドキュメンタリーでしたね。だから、僕ではなく、浩市が身を持って育てちゃったんじゃないかな。でも、そうやって手応えを掴んでいくことに、伊勢谷くん本人も気に入ってたよね。
田辺/そうですね、いまだに仲良くしています。
和田/いい俳優さんになりましたよね。
田辺/キョンキョン(小泉今日子さん)からは、「あなたに誠実という言葉はない」って言われていたようですけれど(笑)
(つづく)